
「39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断されたら、あなたならどうしますか?」
絶望の淵に立たされるような宣告を受けながらも、「人生の主導権(ハンドル)」を離さず、笑顔で活動を続ける男性がいます。それが、丹野智文(たんの・ともふみ)さんです。
丹野智文さんの半生をモデルにした映画『オレンジ・ランプ』や、多くの著書、そしてNHKの特集番組を通じて、今「認知症との向き合い方」が大きく変わり始めています。
丹野智文さんは、宮城県のネッツトヨタ仙台でトップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳の若さで若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。
丹野智文さんの最初の異変は、仕事中に起こりました。「顧客の顔と名前が一致しない」「さっき話した内容を忘れてしまう」といったミスが重なり、当初は過労を疑ったそうです。しかし、検査の結果は若年性認知症。当時は「認知症=人生の終わり」という偏見が強く、丹野智文さんもまた、将来への絶望から2ヶ月間も泣き続ける日々を過ごしました。
2013年の診断から10年以上が経過した現在も、丹野智文さんは精力的に活動しています。現在の主な症状は、新しいことが覚えられない短期記憶障害や、場所の感覚がわからなくなる見当識障害です。かつての愛車も、安全のために自ら運転を卒業しました。
しかし、丹野智文さんは立ち止まりません。「忘れてもいい工夫」を徹底しています。
丹野智文さんは「弱みを見せること」の大切さを説いています。認知症であることをオープンにし、周囲に助けてもらうことで、逆に活動の幅が広がることを証明しました。これは、当事者が孤立しがちな現在の介護社会において、非常に重要なマインドセットとなっています。
2023年に公開された映画『オレンジ・ランプ』は、丹野智文さんの実話をベースに、若年性認知症と向き合う夫婦の9年間を描いています。
本作は、実話をモデルにしながら、劇中では「只野晃一(ただの・こういち)」という役名でストーリーが展開します。
認知症のシンボルカラーである「オレンジ」。そして「ランプ」は暗闇を照らす希望を指します。劇中では、何でも先回りして助けようとする妻が、やがて「本人ができることを奪わない」ことが真のサポートだと気づく過程が丁寧に描かれています。これは、家族介護に悩むすべての人への福音となるテーマです。
丹野智文さんの発信は、これまでの「守るべき病人」という認知症観を劇的に変えました。
著書『認知症の私から見える世界』では、丹野智文さんが人生の転機として挙げるスコットランド視察に触れています。そこで丹野智文さんが見たのは、認知症当事者が普通にカフェで働き、人生を楽しんでいる姿でした。「認知症になっても人生は終わりではない」という丹野智文さんの信念の原点は、この北欧の共生社会にあります。
NHKなどのメディアで度々特集されるのが、丹野智文さんが代表を務める「おれんじドア」の取り組みです。これは、認知症と診断されたばかりの人が、同じ当事者に相談できるという日本初の画期的な場です。「専門家のアドバイスよりも、同じ道を通った仲間の言葉が一番響く」。この「当事者発信」の力こそが、今、必要な変化です。
丹野智文さんの姿は、私たちに「認知症=悲劇」という固定観念を捨てるよう促しています。認知症になっても、適切な工夫と社会の理解があれば、その人の人生は豊かに続いていきます。
Q:丹野智文さんは今も仕事をされていますか?
A:現在は所属していた会社を退職し、講演活動や「おれんじドア」の運営、認知症当事者としてのコンサルティングなど、独自のスタイルで社会貢献を続けています。
Q:映画『オレンジ・ランプ』はどこで観られますか?
A:劇場公開後、現在はDVDレンタルや一部の動画配信サービス、また自治体などが主催する上映会などで鑑賞が可能です。
Q:若年性アルツハイマーは遺伝しますか?
A:多くの場合は遺伝とは無関係に発症しますが、ごく稀に遺伝性のものもあります。不安な場合は、専門の医療機関で遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。
【参考資料】 ・映画『オレンジ・ランプ』公式サイト ・丹野智文著『認知症の私から見える世界』(文藝春秋) ・NHK ハートネットTV「認知症とともに良く生きる」特集