
この記事でわかること
1995年、単身ミャンマーへ渡った外科医・吉岡秀人(よしおか ひでと)氏は、2004年に国際医療NGOジャパンハートを設立しました。その核心にあったのは「医療の届かないところに医療を届ける」という愚直なまでの信念です。
日本では治療可能な病が、途上国では貧困やインフラ不足により死に直結する。この不条理な「命の格差」を埋めるため、吉岡秀人氏は年間数千件の手術を無償で行い、「救える命を救う」という医師の根源的使命を体現しています。吉岡秀人氏の活動は、単なる慈善事業ではなく、医療者が自身の原点を見つめ直す「医療者の再生の場」としても機能しており、日本から多くの専門家が自費で参加する異例のNGOへと成長しました。
カンボジア・カンダール州に位置するジャパンハートこども医療センターは、小児がんをはじめとする高度な外科手術を無償提供する、東南アジアでも稀有な拠点です。ここでは治療のみならず、クメール・ルージュによる知識層虐殺で途絶えた現地医療者の育成が急務とされています。日本の技術を移転し、将来的に現地人が自国の子どもを救える体制を築く「持続可能な支援」が、ここでの真のミッションです。
ドキュメンタリー番組「情熱大陸」で特集され、多くの視聴者に衝撃を与えたのが、同センターで看護部長を務める嘉数真理子(かかず まりこ)氏です。彼女の役割は、設備も物資も限られた極限状態の現場で、日本基準の安全・高品質な医療を統括することにあります。
嘉数真理子氏は、文化や言語の壁がある現地スタッフに対し、時に厳しく、時に寄り添いながら「命を守るプロフェッショナル」としての規律を浸透させてきました。番組内でも描かれた、限られた資源の中でどの患者を優先すべきかという「命の選別」に近い決断。その苦悩を背負いながらも「目の前の一人を救う」ために歩みを止めない姿は、プロフェッショナルとしての究極の覚悟を提示しています。
最大の特徴は「無償のボランティアシップ」です。参加する日本の医療従事者の多くは、自らの休暇と渡航費を投じて参加します。また、活動資金の約9割が個人や企業からの寄付で賄われており、特定の政治・宗教団体に属さない独立性を保っています。
はい。小児がんの子どもとその家族の外出を支援する「SmileSmile Project」や、大規模災害発生時に医療チームを派遣する「iER(緊急救援)」、さらに医師不足に悩む日本の離島・へき地への看護師派遣など、国内課題にも深くコミットしています。
吉岡秀人氏と嘉数真理子氏の活動は、高度な医療技術の提供に留まりません。それは、絶望の淵にある人々に「あなたを見捨てない」という人間の尊厳を届ける活動です。「情熱」とは、単なる熱意ではなく、苦難を承知で一歩を踏み出し続ける継続の力であることを彼らは教えてくれます。
私たちが彼らの物語を知り、寄付やボランティア、あるいはSNSでの発信を通じて関わることは、世界の「命の格差」を是正する大きな力となります。一人の情熱が、カンボジアの、そして世界の未来を今日も変え続けています。