
「津波だー!逃げろ!逃げろっ!」
みんなに大声で呼びかけましたが、そのときカミさんが、なぜか医院のなかに戻っていくのが見えたんです。
「なんで行くんだ、バカっ!!」
思わずそう叫びました。
あとで聞いたら、診察室に水が入ってこないようにと、自動ドアを閉めていたらしいんです。カミさんからは見えていなかったようですが、僕には背後から津波とともに襲ってくるがれきの塊が見える。
水煙じゃない、土煙です。家が倒壊するとき、土煙がドーンってあがるでしょう。それが、どんどん近づいてくるんです。(略)
「ウソだろ?もう間に合わないのか......」
焦る心を抑えながら、とにかく高台に向けて走り続けました。「早くしろ!早くしろ!」と叫びながら。
あと30秒遅れていたら......、間違いなく逃げ遅れていたと思います。
(『家族のもとへ、あなたを帰す-東日本大震災犠牲者約1万9000名、歯科医師たちの身元究明』柳原三佳/2012年8月28日/WAVE出版)
※緊迫した現場の様子が記述からわかります。こんな状況の中で懸命に逃げる夫婦の姿。あと30秒で逃げ遅れていた...。とんでもない深刻な状況です(敏塾)