広瀬梅(ひろせ うめ)は明治から激動の人生を生きた岡山県出身のトレインドナースです。当時、傷病人を世話することは金銭目的の賤業(せんぎょう)と見なされる風潮がある中で、看護師という職業の礎を築いていきます。桜井女学校附属の看護学校で大関和(おおぜき ちか)らと学んだ後、トレインドナースとなります。トレインドナース(Trained Nurse)とは、特定の医療技術や知識を習得した看護師を指す言葉です。一般的に、看護師として基礎的な研鑽を積み、専門的な訓練や研修を受けた看護師のことです。
広瀬梅を激動の出来事が襲います。明治29年(1896年)6月15日、日本史上最悪の津波災害となった明治三陸地震津波が発生し、約2万2千人もの死者・行方不明者を出しました。この壊滅的な状況の中、広瀬梅は避難所でたった一人取り残された赤ん坊を見つけます。彼女は、その幼い命を見捨てることができず、自ら育てることを決意しました。そして、瓦礫の中をほとんど徒歩で、その赤ん坊を連れて帰郷したといいます。想像を絶する決断と行動です。
広瀬梅は結婚後、佐野梅と名前が変わりますが、その後、アメリカにわたり、看護師・助産師として日本人移民を助け、日本人学校の経営にも携わりました。大関和や鈴木雅、そして、広瀬梅(佐野梅)らのように、日本にも、偏見や世の中の因習と闘いながら、この激動の時代を生き抜くナイチンゲールたちがいたんですね。
この広瀬梅をヒロインとしたミュージカル『拝啓ナイチンゲール様』が上演されます。2025年8月30,31日に岡山・岡山芸術創造劇場ハレノワ小劇場(岡山市北区表町)にてプレ公演があります。広瀬梅役は川上遥菜さん(21)が演じます。2025年8月30日(土)17:00開演・31日(日)13:00開演/17:00開演です。※本公演は12月に岡山と東京で上演される予定です。
原案は、田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社刊)。脚本・作詞:高橋知伽江 作曲・音楽監督・作詞:深沢桂子 演出:眞鍋卓嗣(敬称略)
2026年度前期のNHK連続テレビ小説「風、薫る」(原案は同じく田中ひかる著『明治のナイチンゲール 大関和物語』中央公論新社)で描かれる主人公、大関和(おおぜき ちか)や鈴木雅(すずき まさ)も同ミュージカルには登場するのでしょうか? 明治から昭和の激動期を生きた、多くのナイチンゲールたちの姿に心揺さぶられそうです。(敏塾 富士)