マーサ・E・ロジャーズは、20世紀の看護学に革命をもたらした思想家のひとりです。テキサス州ダラスで生まれ、若くして看護の道へ。1930年代には看護師免許を取得し、コネチカット州やミシガン州で保健師として地域医療に携わりました。
その後も学びを止めることなく、ジョージ・ピーバディ大学、コロンビア大学、ジョンズ・ホプキンス大学で学位を取得。1954年からはニューヨーク大学看護学部で教鞭をとり、学部長として教育と研究の両面で活躍。1979年以降は名誉教授として後進の育成に尽力しました。
彼女の人生は、看護を単なる技術職ではなく、人間の本質に深く関わる学問領域として確立するための挑戦に満ちていました。
マーサ・E・ロジャーズが1970年に発表した『An Introduction to the Theoretical Basis of Nursing』は、看護学における理論的転換点となりました。彼女は「看護人間学」という独自の視点を提起し、看護の対象である人間を以下のような特徴で捉えました:
この理論の中で、マーサ・E・ロジャーズは「環境」「健康」「看護と看護学」を同心円として捉え、ホメオダイナミックス(共鳴・螺旋・統合)という概念を用いて、人間のバランス維持機構を説明しました。
マーサ・E・ロジャーズの理論は、現場での直接的な応用が難しいとされることもありますが、人間中心の看護のあり方を考える上で、今なお新鮮な示唆を与えてくれます。彼女の視点は、医療の枠を超えて、教育・福祉・心理支援など多様な分野にも通じるものです。
「人間とは何か」「ケアとは何か」を深く問い直したいとき、マーサ・E・ロジャーズの理論は静かに、しかし力強く語りかけてくるのです。