先週の日曜日、永住権申請の手続きのために受けた血液検査の結果、私はHIVポジティヴ(陽性)と言われました。その宣告は私を激しい恐怖に陥れ、一瞬にして私の人生の意味は全く以前と異なるものとなってしまいました。「未来」という二文字が、私の人生のプランから消滅し、かわりに「死」という文字がそこに居すわることになったのです。恐怖と絶望のあまり、一日中身体の震えが止まりませんでした。私は新婚五か月目で、ちょうど幸福のまっただ中にいたのです。
夕食後、夫のこのことを打ち明けるまでの時間の長かったこと。私は何よりも、幸福そうな彼をこの恐怖と絶望に陥れなくてはならないのがつらかったのです。実際、仕事や未来の設計よりも、彼の愛情に自分が執着していることに気がつきました。彼の愛を失うかもしれない...それが、さしあたって、第一の恐怖でした。また、もし彼もポジティヴだったらどうしよう。もし私がうつしてでもいたら、と思いました。(『魂の旅~エイズに逝った女性精神科医の手記』佐伯宣子、エンリコ・モンテレオーネ/1996年10月15日/中央公論社)