「ご主人、奥さん、ちょっと廊下に出ていただけますか?」
周先生は顔をこわばらせて言いました。
大観は、周先生が両親を廊下に連れ出したのは、きっと自分の病状を話しに行ったのだろうと推測していました。
「上観、早く、お兄ちゃんのズボンとステッキを持ってきて!」
「お兄ちゃん、何するの?」
上観は大観の命ずるままに、ズボンをはかせてやり、ステッキを手渡しました。そのまま様子を見ていると、大観はよろよろと立ち上がるや、一歩一歩病室から出ようとしていました。(略)
「大観、どうしたの?」
進華さんと盈蘭さんが尋ねました。
「ぼくはパパたちが先生と何を話していたか知りたかったんだ」
(『ぼくにはまだ一本の足がある』宋芳綺著/千島英一・編・訳/平成11年11月22日第1刷/麗澤大学出版会)
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【敏塾の100冊】自分のことを、自分の知らないところで話している気配...。隠しても、そりゃわかります。むしろ、そういった気配が患者を不安にして苦しめることも。