塾長ブログ「一粒万倍」 - 社会人入試

脳科学で読み解くADHDの特性:トリプルパスウェイモデルと脳のネットワーク

ADHD(注意欠如・多動症)は、行動の問題ではなく、脳の情報処理の特性によって生じる認知の偏りです。前回の記事では「だらしない」「なまけている」と誤解されがちな行動の背景に、脳の働き方があることを紹介しました。今回はその仕組みを、脳科学の視点からひもといていきます。

トリプルパスウェイモデルとは?

トリプルパスウェイモデルは、ADHDの特性を3つの神経経路から説明する仮説です。行動の背景にある脳の働きを、以下の3つの視点で整理します。

① 実行機能の障害(前頭前野)

前頭前野は、計画、判断、抑制、記憶の更新などを担う領域です。ADHDではこの部分の働きが不安定になりやすく、注意の持続や行動の切り替えが難しくなります。

② 報酬系の特性(側坐核)

側坐核は、報酬や動機づけに関わる脳の部位です。ADHDの人は報酬への感受性が高く、興味のあることには強く反応しますが、そうでないことには着手しにくい傾向があります。

③ 時間処理の困難さ(小脳など)

小脳は、運動だけでなく認知のタイミング調整にも関与しています。ADHDでは時間の見積もりや段取りが苦手になりやすく、予定通りに進めることが難しくなることがあります。

脳のネットワークで見るADHDの「切り替えの難しさ」

ADHDの特性は、脳のネットワークの切り替えがうまくいかないことにも関係しています。ここでは、2つの主要なネットワークを紹介します。

DMN(デフォルトモードネットワーク)とは?

DMNは、ぼんやりしているときや内省しているときに働く脳のネットワークです。ADHDではこのネットワークが過剰に働きやすく、注意がそれやすくなることがあります。

FPN(前頭頭頂ネットワーク)とは?

FPNは、課題に集中しているときに働くネットワークです。ADHDではこのネットワークの活性化が不安定になり、集中が続かない、あるいは過集中になることがあります。

切り替えの難しさが生む行動のムラ

DMNとFPNの切り替えがスムーズにいかないと、課題への集中が遅れたり、突然注意が逸れたりすることがあります。これは「やる気がない」のではなく、脳のスイッチングの難しさ

脳の特性を知ることが、理解と支援の第一歩

ADHDの人は「できない」のではなく、「切り替えに時間がかかる」「報酬がないと動きにくい」といった特性を持っています。脳の仕組みを知ることで、本人も周囲も対処しやすくなり、誤解やストレスを減らすことができます。

まとめと次回予告

ADHDの特性は、脳の働き方に深く関係しています。トリプルパスウェイモデルや脳のネットワークを理解することで、行動の背景にある「見えない努力」や「認知の個性」に気づくことができます。

次回は、ADHDと創造性の関係に注目し、過集中才能がどのように現れるかを、歴史的人物や文化的な視点から探っていきます。

参考

岩波 明『発達障害』、高橋 長秀 監修記事・講演資料、ADHDに関する脳科学研究論文、番組『ヒューマニエンス』

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