
ADHDは、英語で Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder の略で、日本語では「注意欠如・多動症」または「注意欠如・多動性障害」と訳されます。これは、不注意、多動性、衝動性といった特性を持つ神経発達症(発達障害)のひとつです。
ADHDとは、性格や努力不足ではなく、脳の働き方の特性によって日常の行動に偏りが出やすい状態です。「だらしない」「なまけている」といった評価の裏には、本人の努力ではコントロールしにくい認知の特性が隠れていることがあります。
ADHDの人は、実行機能(計画、整理、抑制、時間管理など)を担う脳の働きに特性があります。そのため、片づけが苦手だったり、時間にルーズに見えたりすることがありますが、これは「意志が弱い」からではなく、脳の情報処理の仕方に由来するものです。
ADHDの特性のひとつに過集中があります。これは、興味のあることに対して極端に集中し、時間や周囲の状況を忘れてしまう状態です。たとえば、発明家のトーマス・エジソンや作曲家のモーツァルトが、特定の作業に没頭した逸話は有名ですが、これらはあくまで「後世の仮説」や「例え話」として紹介されることが多く、医学的な診断があったわけではありません。
前頭前野は、計画や判断、感情のコントロールなどを担う領域です。ADHDではこの部分の働きが不安定になりやすく、行動の切り替えや集中の持続が難しくなることがあります。
側坐核は「やる気」や「報酬」に関わる脳の部位で、ADHDの人は報酬への感受性が高く、興味のあることには強く反応しますが、そうでないことには着手しにくい傾向があります。
小脳は運動だけでなく、認知や感情のタイミング調整にも関与しています。ADHDではこの調整がうまくいかず、段取りや切り替えに苦労することがあります。
デフォルトモードネットワーク(DMN)は内省や空想に関わり、前頭頭頂ネットワーク(FPN)は課題に集中する際に働きます。ADHDではこの切り替えがスムーズにいかず、集中が続かない、あるいは過集中になることがあります。
トリプルパスウェイモデルとは、ADHDの特性を「実行機能の障害」「報酬系の特性」「時間処理の困難さ」という3つの経路から説明する仮説です。次回の記事では、これらの詳細を図解で紹介します。
昔話の「物くさ太郎」のようなキャラクターは、現代の視点で見るとADHD的な特性を想起させることがありますが、これはあくまで「例え話」としての読み解きです。映画『ノルマル17歳。-わたしたちはADHD-』や番組『ヒューマニエンス』では、「ふつう」とは何かを問い直す視点が描かれており、ADHDの理解にもつながります。
ペアレントトレーニングは、ADHDの子どもを持つ保護者が、特性に合わせた関わり方を学ぶ支援法です。叱るのではなく、行動の背景を理解し、具体的な目標と即時のフィードバックで行動をサポートします。
また、家庭や学校では、視覚的なスケジュールやタイマーの活用、スモールステップでの課題設定など、環境を整えることで本人の力を引き出すことができます。
ADHDの特性は、誤解されやすい行動として現れることがありますが、その背景には脳の働き方や環境との相互作用があります。理解が広がることで、本人も周囲もより生きやすくなるはずです。
次回は、ADHDの脳科学的な理解を深めるために、トリプルパスウェイモデルやDMN/FPNの働きを図解で紹介します。
岩波 明『発達障害』、高橋 長秀 監修記事・講演資料、番組『ヒューマニエンス』、映画『ノルマル17歳。-わたしたちはADHD-』、当事者・研究者の発信(小野和哉 ほか)、発達障害に関する国内外の標準的教科書・ガイドライン。