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ACE(Adverse Childhood Experiences)とは、18歳までに経験する虐待やネグレクト、家庭内の問題などの有害な体験を指します。
1998年に米国のFelitti医師らによって発表された「ACE研究」によって、これらの体験が成人後の心身の健康に深刻な影響を与えることが明らかになりました。
現在では、医療・教育・福祉の分野で広く注目されており、トラウマインフォームドケアの基盤としても活用されています。
ACEスコアは、以下の10項目の逆境体験に基づいて算出されます。1つ該当すれば1点、複数あれば加算されます。
ACEスコアが4点以上の人は、そうでない人と比べて以下のような健康リスクが著しく高まることが報告されています(Felitti et al., 1998)。
| 健康問題 | リスク倍率(ACEなしと比較) |
|---|---|
| がん | 1.9倍 |
| 脳卒中 | 2.4倍 |
| アルコール依存 | 7.4倍 |
| 薬物注射 | 10.3倍 |
| 自殺未遂 | 12.2倍 |
ACEという言葉に「逆境」という訳語が使われるため、「人は逆境を乗り越えて強くなる」と誤解されることがあります。
しかし、ACEは子どもの発達に深刻な影響を与える有害な体験であり、放置すれば長期的なトラウマとなる可能性があります。
たとえば、家庭内で暴力を目撃し続けた子どもは、直接暴力を受けていなくても、脳の発達やストレス応答系に異常が生じることがわかっています。
ACEスコアは、自分の過去を数値化することで、見えなかった傷に気づくためのツールです。
スコアが高いからといって「人生が終わり」ではなく、むしろ自分の体験を正しく理解し、必要な支援を受けることができるようになります。
ACE(逆境的小児期体験)は、私たちの心と体、そして社会全体に深く関わるテーマです。
過去は変えられなくても、理解と支援によって未来は変えられます。ACEを知ることは、その第一歩です。
参考文献:Felitti VJ, et al. (1998). The Adverse Childhood Experiences (ACE) Study. American Journal of Preventive Medicine, 14(4), 245-258.