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2026年2月9日・10日の2夜にわたって放送されたNHK『ハートネットTV』の特集「障害者の就労支援はいま」(2月特集)。この番組が描いたのは、私たちが理想とする「福祉」の裏側に潜む、あまりにも過酷な現実でした。
現在、障害や難病を抱える人々が、福祉的なサポートを受けながら働く「就労支援事業所」は全国に数多く存在します。しかし、一部の事業所では、本来の理念から大きくかけ離れた運営が行われている実態が明らかになりました。
第1夜の放送では、福祉の名を借りて利用者を「利益の道具」として扱う事業所の実態が告発されました。本来、就労支援事業は、国や自治体からの「給付金」を原資として運営されますが、その仕組みを悪用するケースが相次いでいます。
番組の取材に応じた当事者たちは、「事業所に通ってもやることがない」「一日中座っているだけ」という驚くべき実態を語りました。これは、利用者を確保することさえできれば、事業所に給付金が入る仕組みを逆手に取ったものです。利用者のキャリア形成や自立支援を無視し、単なる「数合わせ」として扱う運営は、福祉の理念を根本から破壊しています。
自治体や国への取材を通じ、こうした不適切な事業所を指導・監督する体制が不十分であることも浮き彫りになりました。書類上は適切に運営されているように装う巧妙な手口に対し、行政のメスが入りきっていない現実があります。「福祉のブラックボックス化」を防ぐための法整備と、より厳格な監査体制の構築が急務となっています。
第2夜では、なぜこうした問題が繰り返されるのか、制度の根幹にある課題を専門家や当事者を交えて議論しました。単なる批判に留まらず、「どうすれば誰もがいきいきと働けるのか」という建設的な対話が行われました。
就労支援制度は、障害者の社会参加を促進するために作られましたが、運用の段階で「利益」と「支援」のバランスが崩れやすい構造を抱えています。専門家の指摘によれば、事業所の評価基準が「どれだけ多くの人を就労させたか」や「通所人数」に偏りすぎていることが、現場の歪みを生む一因となっています。
番組の後半では、優れた取り組みを行う事業所の事例も紹介されました。そこでは、利用者を一方的に「指導」するのではなく、本人のキャリアプランや意思(セルフ・アドボカシー)を尊重し、共に歩む姿勢が貫かれています。多様な仕事の選択肢を用意し、一人ひとりの特性に応じた柔軟な働き方を提案することが、本来あるべき支援の姿です。
放送内容から整理される、現在の障害者就労支援における主な課題は以下の通りです。
給付金目的の不適切な事業所運営: 利用者の自立よりも経営利益を優先する法人の存在。
ミスマッチの発生: 当事者の希望や能力と、事業所が提供する作業内容の乖離。
情報公開の不足: 利用者や家族が、事業所の質を事前に判断するための情報が極めて限定的であること。
一般就労への壁: 支援事業所から一般企業への移行がスムーズに進まない、ステップアップの仕組みの欠如。
『ハートネットTV』が放送した今回の特集は、私たち社会全体に重い問いを投げかけました。障害があるからといって、働く喜びや成長の機会を奪われることがあってはなりません。
「福祉」とは、誰かを管理することではなく、その人がその人らしく生きるための土台を作ることです。今回の放送を機に、制度の不備に目を向けるとともに、現場で真摯に活動する良質な事業所を支援し、当事者の声が届く社会を作っていくことが求められています。