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双極症(双極性障害)の原因に迫る重要な研究成果が報告されました。順天堂大学・加藤忠史教授らの研究チームが、死後脳82検体を用いた大規模な単一核RNA解析を実施し、視床室傍核(ししょうしつぼうかく:PVT)の神経細胞に特異的な細胞数減少と遺伝子発現変化を発見しました。
視床室傍核(Paraventricular Thalamus:PVT)は、脳の中心部に位置する視床(ししょう)の一領域です。視床は「脳の中継センター」と呼ばれ、感覚情報や情動、記憶、意思決定など、多くの脳領域をつなぐ重要なハブとして働いています。その中でも視床室傍核は、特に情動調整・覚醒・ストレス反応に深く関わる領域として知られています。
視床室傍核は、脳の左右にある第三脳室のすぐそばに位置し、扁桃体、前頭前皮質、海馬など、情動や記憶に関わる領域と密接に結びついています。そのため、近年の神経科学では「情動のゲート(調整役)」として注目されてきました。
視床室傍核は、以下のような機能に関わることが研究で示されています。
これらはすべて双極症(双極性障害)で問題となる症状と深く関係しています。 そのため、視床室傍核は以前から「双極症に関係しているのではないか」と推測されていましたが、決定的な証拠はありませんでした。
今回、順天堂大学・加藤忠史教授らの研究チームが実施した大規模解析により、ついに視床室傍核が双極症の原因部位として特定されたのです。
双極症は、躁状態と抑うつ状態を繰り返す精神疾患で、世界的に患者数が多く、発症メカニズムの解明が長年の課題でした。 これまで、前頭前皮質や扁桃体などが注目されてきましたが、「どの脳部位が最も強く障害されているのか」は明確ではありませんでした。
今回の研究では、死後脳を用いた単一核RNA解析(single-nucleus RNA-seq)という最新技術を用いることで、脳内の細胞を一つずつ解析し、どの細胞がどの程度障害されているかを詳細に調べることが可能になりました。
その結果、双極症患者では視床室傍核の神経細胞が特に強く減少していることが明らかになりました。 これは、双極症の症状(気分変動・覚醒異常・ストレス脆弱性)と視床室傍核の機能が一致していることから、非常に重要な発見です。
今回の研究の最大の特徴は、双極症患者および対照者合計82検体という、精神疾患研究としては非常に大規模な死後脳データを用いた点です。 解析対象は視床と大脳皮質で、特に視床の中でも視床室傍核(PVT)に焦点が当てられました。
研究チームは、最新技術である単一核RNAシーケンス(single-nucleus RNA-seq)を用いて、脳内の細胞を一つずつ解析。 その結果、双極症患者では視床室傍核の神経細胞が特に強く障害されていることが明らかになりました。
これらの変化は、双極症の症状(気分変動、覚醒異常、ストレス脆弱性)と視床室傍核の機能が一致していることから、 「視床室傍核が双極症の病態の中心にある」という強い証拠となりました。
研究チームは、視床室傍核の神経細胞において、以下のような特徴的な変化を確認しました。
双極症患者の視床室傍核では、神経細胞の数が大幅に減少していました。 これは、視床室傍核が構造的に障害されていることを示す重要な所見です。
大脳皮質でも変化は見られましたが、視床室傍核の変化はそれを大きく上回っており、 「双極症の中心的な障害部位」である可能性が高いと考えられます。
視床室傍核の神経細胞では、特に以下の遺伝子群の発現が低下していました。
これらの遺伝子は、気分の安定性や神経活動の調整に深く関わるため、 その発現低下は双極症の症状を直接的に引き起こす可能性があります。
視床室傍核は、以下のような機能を担っています。
これらはすべて、双極症で問題となる症状と一致しています。 そのため、視床室傍核の障害は、双極症の病態を説明する上で非常に合理的です。
今回の研究は、双極症の脳内メカニズムを細胞レベル・遺伝子レベルで明確に示した初めての成果であり、 国際的にも大きな注目を集めています。
今回の研究は、順天堂大学医学部精神医学講座の加藤忠史教授を中心とした国際共同研究として実施されました。 精神疾患研究の分野では、死後脳を用いた大規模解析は技術的・倫理的なハードルが高く、これほどの規模(82検体)で実施された研究は世界的にも稀です。
さらに、解析には単一核RNAシーケンス(snRNA-seq)という最新技術が用いられ、脳内の細胞を一つずつ分離し、細胞ごとの遺伝子発現を詳細に調べることが可能になりました。 この技術により、従来の研究では見えなかった視床室傍核の細胞レベルの異常が明確に示されました。
研究成果は、国際的な科学誌Nature Communicationsに2026年1月7日付でオンライン掲載され、世界中の精神医学・神経科学研究者から注目を集めています。
今回の発見は、双極症の理解を大きく前進させるだけでなく、将来的な診断・治療法の開発にもつながる可能性があります。
視床室傍核の細胞数減少や遺伝子発現変化が、画像診断や血液バイオマーカーで検出できるようになれば、 双極症の早期診断につながる可能性があります。
視床室傍核の神経細胞で発現が低下していた遺伝子(例:CACNA1C、SHISA9)は、 すでに精神疾患のリスク遺伝子として知られています。 これらの遺伝子の働きを補う薬剤や、視床室傍核の機能を調整する治療法が開発されれば、 より個別化された治療が可能になるかもしれません。
視床室傍核は、扁桃体・前頭前皮質・海馬など、情動や記憶に関わる領域と密接に結びついています。 そのため、視床室傍核を中心とした脳回路の調整が、双極症治療の新たなアプローチになる可能性があります。
今回の順天堂大学の研究は、双極症の原因を「脳全体の問題」ではなく、 特定の脳部位(視床室傍核)の細胞レベルの異常として明確に示した点で画期的です。
視床室傍核は、情動・覚醒・ストレス反応など、双極症の症状と深く関わる機能を担っています。 その神経細胞が細胞数の減少と遺伝子発現の低下を示していたことは、 双極症の病態を説明する上で非常に重要な手がかりです。
この研究は、双極症の診断・治療の未来を大きく変える可能性を秘めています。 今後、視床室傍核をターゲットとした新しい治療法や、遺伝子発現の変化を利用した診断技術が開発されることが期待されます。
視床室傍核は、脳の中心部にある視床の一部で、第三脳室のすぐそばに位置します。
視床室傍核は情動・覚醒・ストレス反応に関わる領域で、双極症の症状と一致するためです。 今回の研究で、双極症患者の視床室傍核に細胞数減少と遺伝子発現低下が確認されました。
すぐに治療法が変わるわけではありませんが、視床室傍核が新しい治療ターゲットになる可能性があります。
国際科学誌Nature Communicationsに2026年1月7日付で掲載されました。
順天堂大学医学部精神医学講座の加藤忠史教授を中心とした国際共同研究チームです。