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ロバート・キーガン氏は、ハーバード大学の教育学者で、「人は大人になってからも成長できる」という考え方を広めた第一人者です。教育や医療、リーダーシップの分野で、多くの人に影響を与えてきました。
ロバート・キーガンの代表作『ロバート・キーガンの成人発達理論』(英治出版、2025年)(原題『In Over Our Heads(お手上げ状態)』では、現代社会の複雑さに立ち向かうために、「内なる権威(Inner Authority)」を育てることの大切さが語られています。
長いあいだ、家庭や職場で誰かのために頑張ってきたあなたが、ふと「このままでいいのかな」と感じたとしたら──それは迷いではなく、芽生え・成長かもしれません。
大人になってから看護師、助産師、保健師など、誰かの命に寄り添う仕事を「自分で選びたい」と思ったその気持ちは、キーガンが語る「自己著述的意識(Self-Authoring Mind)」への一歩かも。これは、大人になってから訪れる深い成長のしるしです。
キーガンは、人が意識の段階を進めるとき、いくつかの「喪失」や「揺らぎ」が起こると話しています。これらは不安を感じることですが、どれも自然なことでもあります。
これまでの職場や家庭の価値観から少し離れて、自分の思いに従って生きようとすると「まわりを裏切ってしまったのでは」と感じることがあります。でもそれは、誰かを否定しているのではなく、自分の声に耳を傾け始めた証です。
「この道で本当にいいのかな」「どうなるかわからなくて...」──そんな不安は、自分の人生を自分で選ぶ人が必ず通る道です。地図のない旅に出るような感覚は、変化のサインです。
「もう若くないし、勉強についていけるかな」「本当に試験に合格できるだろうか」──そんな不安もよくわかります。でも、自己能力への懸念は成長するときには必ず伴う"ものです。
ロバート・キーガンは、人の成長を「意識の構造が進化していくプロセス」として捉えています。ここでは、その代表的な5つの段階を、やさしくご紹介しますね。
幼児期に見られる段階で、感情や欲求にそのまま反応してしまう状態です。まだ「自分」と「他人」の区別があいまいで、感情がすべての世界です。
自分の欲求を満たすために、周囲を「手段」として見るようになります。ルールやごほうびを理解し始める時期で、子どもから思春期にかけて多く見られます。
他者の期待や社会のルールを内面化し、「いい人でいよう」とする段階です。多くの大人がこの段階にとどまると言われていて、周囲の評価が自分の価値を決めると感じやすい時期です。
ここからが、「自分の価値観で生きる」段階です。他人の期待ではなく、自分の信念や目標に基づいて選択し、行動できるようになります。人生の再出発を考えるとき、多くの人がこの段階への移行を経験します。
さらに進むと、自分の価値観さえも相対化し、複数の視点を統合しながら柔軟に変化し続ける力が育ちます。この段階に至る人は少ないですが、医療や教育、リーダーシップの現場で求められる深い共感力や複雑性への対応力は、ここに通じています。
このように、成人発達理論は「年齢」ではなく、「意識の構造」に注目しているのが特徴です。どの段階にいるかではなく、どこへ向かおうとしているか──それが、成長の本質なのかもしれませんね。
これまでの人生では、誰かの期待に応えることが大切だったかもしれません。でも、これからは「自分がどう生きたいか」を軸にしていいんです。
それが、ロバート・キーガンの言う「内なる権威」です。他人の声ではなく、自分の価値観に基づいて選び、行動する力です。「自分の人生を、自分の言葉で書き始める」──それが、あなたの新しい物語の始まりです。
進学を決めること。家族と話すこと。勉強を始めること。不安と向き合いながら、少しずつ前に進むこと──そのすべてが、あなたの中の「成長の物語」です。
私たちは、その物語に心から寄り添います。あなたの「内なる権威」が育ち、やがて誰かの命を支える力になるその日まで、いっしょに歩んでいきましょう。
「人生の途中で、もう一度、自分を選びなおす。それは、勇気というより、あなたの中の"知性"が目を覚ました証かもしれません。」
ロバート・キーガン『ロバート・キーガンの成人発達理論』(英治出版2025)